連載コラム
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コラムサラリーウーマン金太郎 ── いよいよ独立起業編
Vol.16 「最後のチャレンジ Part3~転職はやめたよ、独立だ!」
(13.May.2004)
日本に帰国しても私の興奮は冷めなかった。忘れていた仕事、マルチメディア事業への情熱が体にみなぎり、あふれ出そうだった。その想いを胸に翌日本社の関連事業本部に行くとTNの二人の課長とその上司の部長が待っていた。

私 「Y支店長とお目にかかって、お話をしてきました」
T 「それは聞いている。では早速、本題に入ろう」
N 「君の会社のマルチメディア事業部に関して本社は大いに可能性があると見ている。ここ半年、私達のところに外部から、新しいIT企業への資本参加、つまり出資の話が相次いで持ち込まれている。それらを調べると、どれもほとんど実績はなく、絵に描いた餅を信じろというものばかりだ。しかし、どれもが夢物語とは限らない。マルチメディアの可能性を私達は知っている。しかし、これらの持込案件に投資をするくらいなら、既に実績のある君のマルチメディア事業部のほうが、投資育成の価値があると思っている」
T 「しかし、そういう話をしようと思っていた矢先、君の会社の社長はマルチメディア事業撤退を言い出した。君の事業計画も握りつぶしてね。これには驚いたよ」
N 「私達は選択すべき時期がきたと考えている。つまり君のマルチメディア事業部を別会社として独立させるという選択だ」
T 「この前、君に来てもらったのは、君がこの事業に対してどう考えているのかを確認したかった。今回のことを実現するためには、その中心となる人物が必要。つまり君がいなくては絶対に出来ないからね」
部長「今回のことは、非常に慎重に準備を行うが、確実に実現できるかはわからない。会社の分離、独立にはいろいろな手順があり、君の今の会社の経営陣達とのトラブルも予測される。かなり大きなリスクがあることは事実だ。それを踏まえて君の意思を確認したい」

私は大きく深呼吸をしてから答えた。
私 「覚悟はできています。しかし、その前に私からの条件を提示させてください。2~3日待ってもらえますか?」

私は会社に戻り、インターネット開発部門の責任者であるA課長に声をかけた。

「Aさん、久しぶりに夕食一緒にしない。ちょっと仕事で相談したいことがあるのよ」

A課長とは、私が最低最悪の管理職だった「全員から辞表」の件以来、逆に最も仕事で信頼できる関係になっていた。自分の転職で気もそぞろだったこの3カ月、彼と飲みに行くことも無くなっていた。店に入りビールを一口飲んで早速私は切り出した。

私 「私達の事業部、優秀な奴らがどんどんヘッドハンティングされちゃうし、なんかもう行くところまで行っちゃったって感じね」
A 「そうだな。現状維持はできても、発展とか夢の実現とかはもう無理。限界かもな」
私 「事業部になって、私が部長になったら、もっと大きなことが出来るって思ってたのに。お前は管理職なのだから経営サイドの見方をもっとしろとか。もうやってらんない」
A 「おれも、あの経営会議はばかばかしくて出てられないよ。定例システムの運用事業部と、俺達のマルチメディア事業部は根本的に違うんだからな」
私「この前作った私達の事業部の事業計画は握りつぶされたのよ。つまり、会社の事業計画に反映されなかったの。関連事業部で聞いたわ」
A 「もう終わりだな」
私 「もう終わりよ。でもね、最後に残された道があるの。マルチメディア事業部の独立」 A 「えっ、独立?」

Aの力強い言葉が、私の決意を更に強めた。そしてAと一緒に関連事業本部に行った。

私 「この話を受けるつもりです。私達は覚悟してこれに取り組みます。ただし、条件があります。それは、独立させた会社に対して、私個人の出資を認めていただくこと。また外部企業からの出資を認めていただくこと。できれば本社の出資比率を50%以下にしていただくこと。そして出来れば私を代表取締役社長にすること。これらの条件の理由は2つです。それは私が全てを賭けることに対する見返り。そして、もう一つは新会社を今の私達の会社のように状態にしないためです。親会社からの何も分からない出向経営者や管理職の受け皿会社を作るつもりは毛頭ありません。IT業界の中でも目をひく、すごいと思われるような会社にしたいのです」

かなり思い切ったことを言ったけれど、それは私の中の真実だった。

「その基本路線でいいだろう。その代わり、事業計画は君が作れ。外部の出資企業も君が探してくるんだぞ。時間にそれほどの猶予は無い。年内にめどをつけてくれ」

私は翌日、ヘッドハンターI女史と会った。
私 「申し訳ないけど、例の話をお断りしたいの。私転職することを止めたわ」 I 「なんで、もう最終面接だけよ。それだって形式だし、本決まりみたいなものよ。貴方だって乗り気だったじゃない」
私 「本当にごめんなさい。私は今の会社でもうマルチメディア事業をやれないと思ったから転職を考えたの。でも最後にもう一度チャンスがやってきたの。それは事業部の独立」
I 「独立? その話は確かに貴方にとって魅力的かもしれないけど、確実なの? 何か保障はあるの?」
「何も保証はないの。確実でもない。それどころか大きなリスクがあるわ」
I 「じゃ、その話と、こっちとしばらく二股かけてみたら。即決しなくても、先方だって年内くらいは待つわ」
私 「ありがたいことだけど、それじゃ駄目なの。私最後のチャンスに全てを賭けてみたいの。駄目だった時の安全ネットを持ってなんて、命がけの覚悟じゃないもの」

Iは、半ば呆れ顔で、しかし、それが私の良さなのかもと言いながら納得してくれた。私は大きな舞台の上に押し上げられたような感じがした。もう逃げられない、前に進むしかない。勝負するしかない。覚悟は決まった。38歳の決断の時だった。季節は夏が本格的に始まろうとしていた。3カ月前、半年前の自分からは想像できない今があった。そしてそれから年末までの5カ月間にまさかあんなことが起こるなんて、そしてその結果は・・・。 (つづく)

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