連載コラム
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コラムサラリーウーマン金太郎 ── いよいよ独立起業編
Vol.15 「最後のチャレンジ Part2〜パリでの決断」
(2.Feb.2004)
突然のパリ出張は社内でかなりの違和感があったが、関連事業本部がらみなので、上層部も文句を言えず了承した。しかし、仕事はぎりぎりまで忙しく、結局徹夜でパッキングする羽目に。テレビをつけているとワールドカップ(パリ大会)の準決勝をやっていた。そしてフランスチームが勝った。飛行機に乗るなり爆睡、そして私はパリに到着した。今回はフランスの商工会議所のようなところが、インターネットを活用して日本とのビジネスを模索したいという相談だった。今回の案件のビジネスコーディネーターはパリ在住7年になる素敵な日本人女性だった。

 私は彼女に会った瞬間にビジネスや人生観に共鳴できる部分があるのを感じ取った。日本の商社に勤めている頃に一人フランスに住み、ビジネスを展開することを決めたという彼女の生き様は逞しく、また輝いていた。私がこのところ失っていた輝きをそこに見た。そして彼女は仕事の役割を超えて、芸術を愛する私に美術館や、観光客では訪れることのできない素敵なパリの夜景スポットを案内してくれた。パリの街角はワールドカップの決勝を前に、あたかも優勝したかのようなお祭り騒ぎだった。それは普通のパリではなかった。この熱狂もまた私にとって大きな刺激となった。私はビジネスの商談をしつつ、自分自身がリフレッシュし、生き返っていくのを実感していた。

 到着して3日目にやっとF支店長と面会をすることになった。ワールドカップのため、毎日VIPの到着で彼は大忙しだったのだ。この忙しい時期に私と会う機会を作ってくれたのは、ある意味嬉しく、しかし、不思議だった。
「植田くん、久しぶりだね」
F支店長は限りなくソフトだ。波目でいつも笑顔。だから、なぜかこの人の前では自分の考えや夢、時には怒りも素直に話してしまう。そう、会社を辞めることもこの人にまず言わなくてはと思った。
「君のマルチメディア事業部は、本当に発展してきたよね。あのまま関連事業本部にいたら一緒にもっともっとやれたね。でも君の活躍や苦労は部下のNやTから、いつも聞いてるんだよ」
「ありがとうございます。でも、今までみたいな急成長はいろいろな事情で出来なくなってしまいました。事業部の体制や会社の方針。でも、一番大きいのは私のモチベーションが…」
「君、会社辞めたいのじゃないかい? 君ならいろいろな話があるだろう。そりゃ、当たり前だよな。君のところの社長は分かってないし。僕が君だったら転職を考えるだろう」

お見通しだった。「実は、私は今の会社でやるべきことはもうないかなと思っています。ドリームチームは崩壊しました。優秀な部下達は卒業していった。残っている今のメンバーも私がいなくても、もう大丈夫でしょう。会社もマルチメディア事業を拡大することは願っていない。そろそろ、別の場所で新しいチャレンジをしてもいいかなって。私まだ37歳ですから、売れっ子のうちに、体力のあるうちにって」

「そうか。じゃあ、君はマルチメディア事業に興味が無くなったのかい?」
痛いツボを押された感じだった。思わず飛び上がるような感覚を味わった。私は大きく息を吸ってから一気に話し始めた。
「マルチメディアに興味が無くなる? そんなはずないじゃないですか? だってインターネットは未知数の可能性があります。今まさに企業がそれを活用し始めたところですが、まだまだ手探り状態です。ビジネスチャンスは計り知れません。そして個人にとっては新しいコミュニケーション手段として、情報収集手段として世界観を変えます。人間の能力は10倍にもなるでしょう。そしてインターネット自体がどんどん進化し続けるのです。飽きるどころか目が離せないという感じです。私にとって他のビジネスとは比べ物になりません」

私は話しながら自分の言葉を聴いてびっくりした。私はマルチメディア事業がやりたいんだ。7年前と今とまるで情熱は変わっていない。それより強くなっているかもしれない。 「そうか、それを聞いて安心したよ」
「でも、その気持ちを今の会社の中では失いつつありました」

一瞬の沈黙があって、F支店長がゆっくり話し始めた。

「君のマルチメディア事業部を独立させるということに興味はないかい?」
「えっ?」
あまりに突拍子も無い話に私は戸惑った。「つまり、君の事業部を今の会社から切り離して別会社にするんだよ。もちろん君には経営者の一人となってもらってね。そこでマルチメディア事業だけの会社を展開する。もちろんこれには準備がいるし、上手くいくかはわからない。それに何といっても君自身がどう思うかが重要だしね」

今度は、私にためらいは無かった。
「もし、その可能性があるなら、私は全精力をかけて、マルチメディア事業部の独立、新会社設立にチャレンジしたいと思います」
「よし、分かった。東京に戻ったらTとNにもう一度会いたまえ。後は関連事業本部とよく話し合ってごらん。僕もパリから出来る限りの応援をするよ」

パリ支店はシャンゼリゼ通りにある。優勝記念パレードの興奮を見ながら、私はもっと興奮している自分を感じていた。私はマルチメディア事業部を独立させて会社を作るんだ! さあ、東京に戻ろう、やることは山ほどある。 (つづく)

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