連載コラム
spc

コラムサラリーウーマン金太郎 ── いよいよ独立起業編
Vol.14 「最後のチャレンジ Part1〜奴らの思惑」
(5.Jan.2004)
久しぶりに関連事業本部のミーティングルームだ。私はここに来るとホっとする。そうこの5年、私と私のマルチメディア事業部の成長を影となり日向となって見守り、いや守ってくれてきたのが関連事業部だ。ここの部長、課長、担当役員の専務取締役には、本当にお世話になり、大事にしてもらってきた。特に課長達は、年代の近さもあり、ある意味同志であり、私をやんちゃな妹分のように扱ってくれた。コーヒーを飲みながら、近いうちにこの人達に私が転職しようとしていることを話さなければならないことを考えると、さすがに後ろめたさを感じた。まあ、今日はその話はすまい。私は彼らのリクエストどおりに、今年のマルチメディア事業部の事業計画を持ち、上層部には内緒で朝一に来ていた。 NとTの二人の課長が部屋に入ってきた。そして私に向かって尋ねた。

「植田くん、久しぶりだね。3カ月以上顔を見なかったぞ。どうしていた?」
「昨年度はいろいろあったよね。君の会社に出向になった本部長がとんでもないことをしちゃったり、さらに君の片腕とも言うべき部下達が引き抜かれたりしたしね、さぞや大変だったよね。マルチメディア事業部はどうなんだい、今年は?」
「確かに昨年はいろいろありました。マルチメディア事業部は昨年までの飛躍的な売り上げ増や拡大は出来ませんが、今年は現状の売り上げを10〜15%伸ばしながら、利益幅を大きくする効率化を中心とした展開が出来る予定です」
「いや、それは本当かい? ところで君は今期の事業計画を書いているのかい?」
「ええ、昨年も直接皆様にも見ていただいているように3年計画を作りながら今年のものを作っていますが、もちろん3月末には」
「それ、持ってきたかな? 実は君の会社の経営陣はマルチメディア事業部の事業計画が出てないというんだよ。というか撤退を考えているというか、社長はもうマルチメディア事業を止めたいとすら言っている。事業内容を従来の航空券の精算業務だけに絞りたいそうだ」
「なんですって? それは、本当ですか?」

私は2カ月前に作った事業計画を見せて説明をした。彼らはその数字と私の戦略を聞き頷いた。そして同時に二人は顔を見合わせて頭を傾げた。

「この事業計画を彼らは理解していないのかな?」
「いや理解はできるだろう。ただ、彼らは経営者として会社の事業展開がマルチメディアに偏っていくことが嫌なんだろう」
「何考えているんだろう。時代はマルチメディア、インターネット、ITじゃないか?」
「植田くんの事業部は数ある関連会社の中で、親会社以外のクライアントをどんどんつかみ、しかも社会的に評価される仕事ばかりしているじゃないか。パソコンメーカーとの共同のプロジェクト、テレビ局のインターネットや、有名メーカーのイントラネット…。通産省の特別プロジェクトまで受注して、我々も式典に出るほどだったじゃないか。もっともっと発展していく世界だよ」
「だから嫌なんだろう。自分達ではとうてい管理もマネージメントも出来ない。我々と直に植田くんが話したり、彼女はもはやうちの役員クラスにも顔を知られ、可愛がられている。彼女が本社の人間でなくても、それは脅威なんだろう」

 社内でY本部長を更迭したのはほんの半年前だ。その時、経営陣はマルチメディア事業の未来の発展をと、しきりに言っていた。ところがどうだ。はっきり言って私とマルチメディア事業部に対する嫉妬と脅威、それがこんな陳腐な形で露呈している。私の事業計画を握りつぶす、ばか丸出し。それが経営者のやることか? 上等じゃない、これで私も辞表を叩きつけて辞めてやるわ…と心の中で呟いた。私が黙っていると、N課長が優しい顔をして話し始めた。

「良かったよ。君がちゃんと未来を見ていて」
いや、もう未来を考えてなどいないのに…。
「てっきり、君が辞めるとか言い出したからかと思ったんだよ」
あああ、まさにそれは…。
「ところで、昨年まで関連事業本部の部長だったFさんを覚えているかい?」
「もちろんです。今はパリ支店の支店長ですよね」
「そうそう、そのF支店長が君に会いたいらしい」

F部長こそ、マルチメディア事業部の発展にもっとも尽力を尽くし、私にチャンスを与えてくれて伸ばしてくれた人だ。私はその人を尊敬していた。まさに理想の上司であり、私のメンターでもあった。しかし、今はメールで近況報告をする程度だった。

「何やらマルチメディア関係の案件があるらしい、来月あたりパリ支店まで出張に行くことは出来ないかな?」
「はあ、でも何も分かってない会社の上層部とも話さないと海外出張は…」
「それは、僕達のほうからも何とでも出来るから。君の意思はOKだね。では早速F支店長に連絡しておこう」

私は頭の中に???マークをたくさん持ち帰りながら会社に戻った。転職直前というのに海外出張。でも重い仕事でもなさそうだし、F支店長の顔を見るつもりで行こうかな。そのくらいはこれだけ頑張って働いてきたんだもの、バチはあたらないか? おりしも、映画会社のUS本社VIPの来日が1カ月遅れるというヘッドハンターからの連絡が入った。じゃ、とりあえずパリに出張しますか。ところが、その出張こそが思いもよらぬ決断を私にさせることになるとは…。 (つづく)

Top↑
spc

close