連載コラム
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コラムサラリーウーマン金太郎 ── いよいよ独立起業編
Vol.12 「別れの予感 Part12〜もう不可能を可能にできない」
(4.Nov.2003)
営業のMの盛大な送別会はまさしく『兵どもの夢の後』。穴が開いたような事業部の空気は、埋まることもなく時は過ぎた。そして今、私はシステム開発部門の責任者の主席主任Kと向かい合って座っている。机の上にはKの辞表があった。

彼と出会ったのは4年前。航空券精算システム開発のSEの募集に、先輩の誘いで面接に来たのがKだった。当時まだ29歳くらいだっただろうか? 彼がネットワーク開発をやってきたという話を小耳に挟み、マルチメディア開発のためのSEを探していた私はどうしてもKと話をしたいと部長に掛け合った。そして非公式な面接を無理やり始めた私に、どうしてと驚いた顔をしていたのを思い出す。
しかし、マルチメディアの可能性、夢を熱く語る私にあっという間に共鳴し、2時間後には、マルチメディア開発部門でのSEとしての入社を決めていた。

そして、私達のゼロから1を創る仕事が始まった。
「そんなこと出来るわけがないじゃないですか?」
「なんでできないのよ」
「やれないですよ? そんな開発事例見たことないですよ」
「何言ってるのよ。インターネットはまだ誰もが手探り状態だから面白いんでしょう。人が出来ることをやったってしょうがないのよ。私が考えることが実現できなくて、何がマルチメディアよ。優秀なSEなら、私を驚かせてみせなさいよ」
「そんな無理なことは、無理なんですよ」
「何しろ頭で考えて無理なんていうのは却下! 今晩徹夜して、自分達で本当にできないか検証してみなさい。明日の朝、その返事を聞くわ!」
私は捨て台詞を残して部屋を後にした。
彼らの「バカヤロウ!」「開発など何も分からないくせに、ふざけるな!」という声が背中に響いた。

翌朝、本当に貫徹をしたう様子で髪はくしゃくしゃ、髭が伸び放題状態のKがやってきた。私はちょっとウキウキしながら彼の言葉を待った。
「それで結果は?」
Kの徹夜開けで血走った目が、急に輝いた!
「出来そうです。やれますよ! これやれたらすごいですよ」
本当?最高ね! あなた達は本当に天才だわ!」
そして、彼はその言葉の通りにシステムを作り上げた。彼を中心とした開発部門は何度も何度も不可能を可能にした。まさに「Dreams come true!」。そして、その都度、私は彼らの才能と達成への執念に感動し、感服した。

中でも彼が中心となって手がけた、イントラネットのパッケージソフト「イン虎の巻」(イントラネットと、寅年と、虎の巻をかけたネーミング)はビジネスショーにも出展し高く評価を受けた。最大手のシステムベンダーの本部長がこのソフトを販売したいという申し出があり、私とKは宙にも浮くほどの嬉しさを感じたのはまだ1年ちょっと前だ。しかしながら、開発サポート体制を作れないという理由で外販中止を会社の上層部が決定した時は、会社に対してどれほど絶望したかはしっかり覚えている。
Kの自分の能力や可能性への夢や目標が大きくなればなるほど、私の用意した舞台は狭くなっていった。海外出張でのヘッドハンティング、そして営業&開発のパートナーだったMの転職は、彼にとって自分を成長するために次の場所とタイミングを決意させていた。

私は彼の言葉を聴き、引き止めることなく、頷いた。
「いいわよ、あなたも卒業しなさい。そして必ずもっとビッグになって頂戴」
「大丈夫ですか? この後は?」
「そりゃ、大丈夫ではないわね。これからは不可能が可能になることは無いわ。そう不可能は不可能のままだわね。でも、貴方の能力をここで使うのはもったいなさ過ぎると思うから。」
私はシステムインテグレータの会社数社とアポを取り、業務提携を行うことにした。しかし、彼の抜けた穴は埋められないと分かっていた。KもMも最高だった。彼らの代わりはいない。ドリームチームは崩壊した。

大好きな桜の季節を迎えるというのに、私の心は冷たい隙間風が吹いていた。会社に来て仕事をしていても、まるで血の通わない機械のような自分を感じていた。そして、机の上の電話が鳴った。
「久しぶり、私Iと申します。3年前の魔女パーティでお目にかかっていますが、覚えていらっしゃいますか? 突然ですが、植田さんのキャリアアップにつながる素晴らしいお仕事のポストがあるのです。そのお仕事へのお誘いのお電話なのですが、お話だけでも聞いていただけませんか??」
それはヘッドハンターからの電話だった。次の瞬間、自分でも意外なほど自然に答えていた。
「そうですか、お話を聞くだけでもいいならお目にかかりましょう」つづく

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