連載コラム
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コラムサラリーウーマン金太郎 ── いよいよ独立起業編
Vol.9 「最後の戦い Part2〜恐怖政治 正体は殺し屋だった!〜」
(4.Aug.2003)
月曜日の朝、9時30分に約4週間ぶりで出勤した。
晩秋のせいか、私がドアを開けた景色は冷え冷えとしていた。
マッキントッシュに向かうクリエイターの2名が、私に気づいて笑顔で挨拶をした。

「アシスタントのSちゃんは今日も休み? 彼女は何の病気なの?」
一瞬にして彼らの顔が曇り、口ごもった。
「おはよう! 無理して今日から出勤か? もっと休んでいて良かったんだぞ」
Y事業部長の明るい声が部屋にこだました瞬間、空気が凍りついたような気がした。
私はY事業部長と応接室に入った。
「1カ月近く休んでしまい申し訳ありませんでした。今週は1日2〜3時間、来週からはフルタイムで頑張ります」
「あれ、そんな必要全く無いぞ。無理しなくていい、マルチメディア事業部は僕が完璧に掌握した。やってみると君のやり方には数々の問題があったよ。これからは僕のやり方で業務改革をして業績を伸ばす。なんたって、親会社にとって一番注目されている部署なんだから、プロパーの女性管理職が仕切るのも限界があるからね。安心しなさい、君は外部企業の開拓でもやったらどうだ。いっそのことマルチメディア事業じゃなくて、新規事業に取り組んだって構わないぞ」
あらま、自信過剰気味なことは感じていたが、あまりに呆れた言葉だ。
「Y事業部長は1カ月で私のマネージメントの問題点を見つけ、業務改革をされていたのですね。ところで部下はどんな感じですか?」
「君の部下はなってないよ。プロパーの社員だから仕方がないか。私の決定に対して、楯突いたり、平気で意見を言う。上司の決定は絶対だというルールを分かってないな。何しろ個別に面談をして、問題点を指摘してやったよ。中には会社に来なくなってしまった奴もいるが、そういう人間はいっそのこと、この機会にそのまま消えてくれたらいいよ」

私は思わず手に硬い握りこぶしを作っていた。この場で目の前にいる人間を殴りつけたい衝動を抑えるのに必死だった。

午後、社長がやってきた。
「状況は初日でわからないかもしれないが、Y事業部長と君の部下達の間に大きな溝ができてしまったようだ。君にはその溝をどうにか埋めてもらいたい。君しかできないし、君ならできるはずだ。前のような、活気溢れるマルチメディア事業部にしてくれ」

私は2週間の時間をもらうことにした。そして部下達へのヒアリングを始めた。

「部長が辞めるか、自分が辞めるかしかないと思います」
「まるでナチスドイツか、ルーマニアのシャウチェスク政権ですよ。恐怖政治だ」
「自由なアイデアやクリエイティブを否定されたら、マルチメディアはやれません」
「僕達は会社の歯車、マシン扱いなんですよ。血も涙も無い」
「部長に怒鳴られるのが怖くて体調が壊れてしまいました。もう出勤できません」

この声をもってY事業部長と再度話をすることにした。

「君は何の権利があって、事業部を引っ掻き回すようなことをやるのか。誰の命令でやっている。俺は取締役でお前の上司だぞ。いざとなったらお前の人事権だってあるんだぞ」
ああ、この人は何も分かっていない。自分が正義だと思い込んでいる。

私は、親会社のY事業部長が元いた部署に電話をかけた。
ここは私の事業部の最も大きな売り上げをあげているクライアントの部署でもあった。
直属の部下であり私と仲のいいM課長が電話に出たので尋ねてみた。
「あのY事業部長ってとっても優秀でやり手って聞いたんですけど……」
「あれ〜。もしかして何かあった? いや〜、大丈夫かなって心配はしていたんだよ」
「心配? 私は非常に優秀な方で、同期の中でも出世が非常に早いと聞いていますが」
「確かにね、あの人は優秀ですよ。特にね、業務改革というリストラが得意でね、経費削減もさることながら、平気で人を切るよ。それで泣いた奴が本社で何人いるかわからない。人を切る仕事なんて皆したくないだろう。そういう仕事を率先してやって、業績を上げて出世する。やり手だよ。部下を潰して、部下の手柄も取るしね。彼のことを『殺し屋』と呼ぶ人もいるよ」
ああ、なんたること『殺し屋』が自分の上司とは……。
殺し屋に殺されるわけにはいかない。私は戦うことを決意した。(つづく)

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