連載コラム
spc

コラムサラリーウーマン金太郎 ── いよいよ独立起業編
Vol.8 「最後の戦いPart1 〜予期せぬ出来事 退院祝いの席で告げられた事実〜」
(14.Jly.2003)
子宮筋腫2回目の手術が終わった私は、3週間ぶりに自宅に戻り、安心感で満たされていた。あと2週間は休暇療養をしよう。休むときに私の直属の上司である取締役事業部長Yの言葉を思い出した。

「ゆっくり休んで、体を完璧に治してきなさい。あとのことは何の心配も無いよ。全て私に任せなさい。君が大きくしたマルチメディア事業部、インターネットの開発事業を僕はさらに拡大するように頑張るよ」

本社でもやり手と言われるY事業部長は、赴任してまだ6カ月も経たないのに、頼もしい言葉をかけてくれた。ゆっくりしていても大丈夫だろう。私の立ち上げたマルチメディア事業部は本体の航空会社の事業部同様に非常に重要な役割を果たしていたので、出向してくる管理職も実力派の人が来るようになったのだろう。やり手というY事業部長は非常に有名な人だった。
 一応退院のこともあるから、会社に電話だけはしようと受話器をとった。

「もしもし、植田です。無事に退院しました。ごめんね、留守にしちゃって、皆頑張っている? アシスタントのSちゃんはいるかな?」

開発のM君が電話に出たが、ほんの一瞬、沈黙があった。

「植田さん、ああ……良かったですね。退院したんですね。それでいつから会社に出て来られるんですか? あのSさんはお休みです」

「あと2週間くらい休もうと思ってるの。私がいなくたって、皆ガンガンやってるんでしょう? Sちゃん休みか、じゃインターネット開発の責任者のT課長は?」

「植田さん、すぐに会社出られないんですか? あの〜、T課長も休みなんです。それで事業部の雰囲気が、その、あの…」

「えっ、T課長、どうしたの? 何か病気なの? 今、大事なプロジェクトを皆抱えているはずじゃない?」

「あの、病気というか。もう何がなんだか……仕事したくないっすよ。こんな状態じゃ」

「どういうことなの。教材開発のA課長は?」

「僕からは説明できません。A課長は今、打ち合わせで外出しています」

「わかったわ。あとでもう一度、電話するわ」

 開発のO君との電話に、かすかな不安を感じたが、私はまだ何が起きているのかわからなかった。すっかり病院モードの私は電話をすることも忘れて、早めの夕飯を食べて寝てしまっていた。翌日、9時過ぎに電話が鳴った。なんと、社長からの電話だ。

「体調はどうだい?」

「社長、わざわざお電話ありがとうございます。体調はすこぶる順調に回復しているようです。ご心配をかけました」
「そうか、それでいつ頃復帰できるかな?」

「はあ、一応病院の先生は、リハビリ期間は2週間くらいとりなさいということなので、その通りにしようかなと思っています。もちろん、日常生活に支障があるわけではないので、あと10日くらいで大丈夫かなと……」

「そうか。で実は本社のO専務とZ部長が君の退院祝いをやろうということで、明後日の金曜日にお店を予約したんだがどうだい? 僕を含めて4人で食事だ。もちろん君の体のことを考えて18時くらいからにしてるよ」

本社のO専務とZ部長は、私のマルチメディア事業を立ち上げ当初から応援してくれた、関連事業統括部門のキーマンだ。そうかそんなに私って大事に考えてもらってたんだと思ったら嬉しくなった。

「そんな、もったいないというか感謝感激です。是非伺います」

「ところで君は会社から5分くらいの場所に住んでいると聞いたが、来週からでも、1日1時間でも会社に来たらどうだろう?」
社長の最後の一言を聞いて、心が何かざわついた。昨日の不安が蘇ってきた。

金曜日、新橋のとある小料理屋の個室で、私は一番の上座に座っていた。社長が口火を切った。

「植田くん退院おめでとう。ところで早速なんだが、君の留守中にとんでもないことが起きてしまったんだ」

「えっ?」

「その、Y事業部長がやり過ぎたというか、彼の本社でやってきたやり方が、マルチメディア事業部では通用しなかったというべきか」

「何が起きたのですか?」

「今、2人休んでいる。事業部のモチベーションは限りなくゼロに近い。辞めたいと言っている者も数名いる」

「なんですって?」

「何しろ、君の復帰しかこの事態を変えることは出来ない。1日、数時間でもいいから会社に出てくれ」

「自分のために生きる」
病院で誓ったことを忘れたわけではない。でも私は来週月曜日から会社に復帰するしかない。私の体がぼろぼろになるまで追い求めた夢が、今壊れかけているのだから。(つづく)

Top↑
spc

close