連載コラム
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コラムサラリーウーマン金太郎 ── いよいよ独立起業編
Vol.4 「スーパーウーマンなんていないよPart1 〜信じられない緊急入院〜」
(23.Apr.2003)
「課長、大丈夫ですか? 調子、かなり悪そうですよ」 「何言ってるのよ。ちょっと風邪をこじらせているだけ。明日からの京都セミナーはすごく重要よ。私の心配より自分達のプレゼンの準備は大丈夫なの?」

梅雨の季節に風邪をひいて3週間が過ぎていた。いつもなら、風邪薬と栄養ドリンクを飲めば3日で治っていたのに今回は手ごわい。しかし休んでいる暇はない、営業目的の企業向けセミナーを東京と京都で開催するのだから。親会社である航空会社の訓練のCBT化(コンピュータ・ベースド・トレーニング)は新聞にも取材されるほどの実績評価を得ていた。大手企業からの注目も高く、これをチャンスに結びつけなくてどうする。セミナー参加者からの受注率30%超える成果だって出してきた。
それにこの4年間、病欠で休んだ記憶はない。有給休暇を使っての海外旅行は自分へのご褒美だった。体力は実力の80%が私の口癖で、週に3回のスポーツクラブ通いをしながら、体だって鍛えてきた。心身ともにストレスにも強いスーパーウーマン、これが私の目指す姿だった。
そんな私にとって、風邪なんて病気のうちには入らない。微熱はスポーツクラブで泳いで汗かけば下がったもの。しかし、今回は咳がとまらない。夜中に咳が出て眠れない状態が続いていた。しまいには、横になることが辛くて、壁に寄りかかって浅い眠りにつく状態となった。さすがに病院に行こうかとも思ったが、明日からの京都セミナー入りを前にそんな時間は全くない。
私は翌朝、風邪薬と栄養ドリンク、咳止めをたくさん持ち羽田に急いだ。航空会社系列なので京都でも飛行機で行かなければならない。飛行機が離陸して数分後、私は耳に激痛を感じた。気圧の変化に風邪気味の私は中耳炎になってしまったのだ。耳を押さえながら、空港に着いたときはもはやフラフラだった。ホテルに入って、リハーサル会場へ。体調は最悪だが、私自身が挨拶をする時間は前後の20分程度、総合責任者として来客に対応すればいいのだから楽だ。そこへ東京からプレゼンテーターの1人の部下がこちらに来られないという連絡が入ってきた。彼は非常に重要な部分を話す。急遽ピンチヒッターとなった私はプレゼン資料を持って一足先にホテルに戻った。もはや耳はほとんど聞こえず、咳は更に激しく、立っていることすら辛かった。スタッフとの夕食もパスして、とりあえずベッドに腰掛けながら、朝を迎えた。翌日、体に悪いほどの量の咳止め薬を飲み、1時間のプレゼンテーションを気力で乗り切った。さすがの私もお客が全員帰った時点で座り込んでしまった。
「皆ごめん、さすがに体力・気力の限界だわ。先に東京に戻ってもいいかな。明日は土曜日だし、近くのクリニックにでも行って薬もらって、週末しっかり寝て月曜日には復活するから、よろしく」
今回の協同主催のコンピュータ会社の部長に看病されながら、新幹線で東京へとたどり着いた。
翌日、自宅近くのクリニックに行き、肺のレントゲン写真を撮った。
「肺が白くなっていますね。気管支炎のようです。抗生物質の点滴をしますが、月曜日にまだ咳が出るようだったら、大きな病院に行ったほうがいいかもしれません」
咳が出るのと胸が痛くてしょうがなく眠ることもできずに週末が過ぎた。しかし、月曜日の朝9時、会社の近くに大学病院に着いた時はこれで治ると私は安易な想像をしていた。

 新患の診察を受けながら3週間の状況を説明した。血液検査と、レントゲン写真を撮って、再度診察室に戻るとお医者さんが看護婦さんに言った。
「君、すぐに酸素マスクと車椅子の用意。それと内科病棟の空きの確認。もし駄目なら緊急患者用入院病棟の空きの確認」
そして私に向き直って
「すぐに入院して治療をします。あなたは急性肺炎になっています」
「えっ、入院? 急性肺炎?」
「そうです。しかもかなり危険な状態です。咳で肋骨にひびも入っていますよ」
「それって入院しないと治療は…」
「できません。数週間はかかります」
「でも先生、入院の準備は何もしてないですから、家にとりあえず帰って」
「何言ってるんですか。このまま緊急入院していただかなくては駄目です。あなたの体は、かなり危険な状態なんですよ」
「では先生、電話を1本かけさせてください」
「わかりました、でも3分以上しゃべっては駄目です。肺に負担がかかりますから」
私は車椅子と酸素マスクをつけられ、公衆電話まで看護婦さんに付き添われた。

私は会社のアシスタントのサキちゃんに電話をかけた。
「もしもし、私よ、サキちゃん」
「課長、今何処ですか? 今日は午後から打ち合わせが入っていて…」
「今、会社の近くの大学病院なの。私、急性肺炎で危険な状態らしくて、緊急入院することになっちゃったの。ちょっと、来てくれないかな。助けて欲しいの」
「なんですって緊急入院ですか? 冗談ですよね?」

彼女の声は私の心の声と重なっていた。私が緊急入院? こんなことあるはずない。
その夜私は交通事故の患者さんたちが入る男女混合のER病棟で一夜を過ごした。(つづく)

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