連載コラム
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コラムサラリーウーマン金太郎 ── いよいよ独立起業編
Vol.3 「全員からの辞表Part3 決断」
(9.Apr.2003)
翌朝、不思議にすがすがしい気持ちで目覚めた。
会社に着くなり部長に時間をもらい、役員応接室に入った。
「どうだ、少し落ち着いたか。彼らに言い渡そう」
「はい。気持ちの整理がつきました。実はお願いがあります」
「なんだ?」
「私を降格してくれませんか?」
「何? 君、何言ってるんだ?」
「私を降格して、彼らと並列にしてください。それを社内で公式に発表してください」
「言っている意味がまるでわからないな。それで何かが解決するのか?」
「部長。彼らが辞表を出したのは私が管理職として失格だというメッセージです。彼らが辞めたいわけではない。彼らは私と同様にマルチメディア事業を面白いと思っているし、それに夢を賭けて頑張っています。だからこそ驚くべき実績を上げているのです」
「それは分かるが、なぜ君が降格する?」
「彼らは私が上司だから辞めたくなったのだと思います。私は事業部の営業を全て担当しています。私の組織は私のほかに3名を除いたら、全員が開発者なのです。つまり営業がとってきた仕事をやるほうです。営業と開発というのは時として対立が生まれます。ある意味、対立はクオリティとコストの戦いです。そのせめぎ合いがあるからこそ、良い仕事が出来るのです。でも私が上司でいれば営業がいつも勝つのです。しかも、私はかなりパワフルで強烈です。彼らは立場上、反対意見を取り下げて従うしかない。私はそれを最終的に納得して賛同してくれたんだと思い込んでいた。だから課長失格、リーダー失格です。私を降格してください。そして、彼らと対等にしてください。そうすれば、やり直せるかもしれないと思います。いえ必ずやり直して、今まで以上に実績を上げてみせます」
「ちょっと待て、君はあれほど管理職になることを望んだぞ?」
「はい。でもそれは私の立ち上げたマルチメディア事業を、事業部まで発展させるために絶対的に必要だったからです。でもそれ以上に重要なことがあります。それは私のチーム、中でも私の両腕と同じ開発担当の課長代理二人。彼らなくして私の夢である事業部は絶対に実現できません。彼らが辞めたらマルチメディア事業を発展させることなどできません。だから私を降格させてください」

結局、私は降格にはならなかった。しかし、私のマルチメディア課は、マルチメディア営業課とマルチメディアシステム課の二つの課に分かれた。私はマルチメディア課からマルチメディア営業課の課長となり、直属の部下は28名から3名となった。残りの25名がマルチメディアシステム課となり、他のセクションの本社出向オジサマが兼任で担当した。降格人事はできないという会社としての配慮の結果だった。この組織変更の発表に、部下達は非常に驚いた。私が黙って我慢しているのが信じられないようだった。まさか、そのときに私が降格してくれと会社に言ったということは誰も知らなかった(課長代理の二人がそのことを知ったのも2年後だった)。

 私はそれから、スーパーウーマン症候群と、傲慢な態度を改めるようになった。すぐに変わったとは言えないが、日々努力するようになったと思う。時は流れて半年後、いよいよ私達の部署が事業部へ昇格するという時期となった。ごく自然に私はまた二つのセクションを見る立場となり、彼らの上司となった。

いつものように月曜日の進捗会議。私は半期の売り上げの80%を上げるほどの案件を受注していた。しかし納期3ヶ月は非常に辛い。たぶん担当と考える5名は徹夜が連夜続くことも想定される。私はいつものように会議の口火を切った。
「今日の最初の営業状況報告として、すごい案件がほぼ受注できそうです。私達の事業部の半期の80%を上げるような案件。業績としても注目される。でもたった一つ問題がある。それは納期が厳しくて、担当になった人達はものすごく大変。私はこの仕事に誰を使命するかと考えたとき、この仕事を断ろうと決めたわ。誰かを指名して、担当した者が潰れたりしたら大変だもの。仕事よりも皆のことが心配だもの」
それから他の案件の討議が続き1時間、最後に信頼する部下達から声があがった。
「あのさ、さっきの案件、やろうよ。うちの事業部で」
「そうそう、無理なんて決めないでくださいよ。いつも不可能を可能にしてきたんだし。僕達でやれますよ」
「いいの、受注して? 私は断ろうと言ったのよ。納期厳しいし。本当にいいの?」
「やりますよ」「やるやる」
「ふ〜ん、じゃOK。受注決定にするわね! 自分でやると言ったのよ、覚えておいてね(ふふふ)」
「あ〜あ、また作戦にまんまと乗せられたって感じだよな」
「まあ、不可能なことまでお客の前で平気で約束して仕事とってくるところが、面白いんだけどね」

あのことがあって、私は少し優しく、少しずるく、でも確実に成長したのかもしれない。

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