連載コラム
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コラムサラリーウーマン金太郎 ── いよいよ独立起業編
Vol.2 「全員からの辞表Part2 絶体絶命」
(19.May.2003)
全員が辞表を出した。  それはつまり、完璧に私が否定されたということだ。しかし、辞表を出した部下達に対する怒りは沸き起こらなかった。それよりも心に大きな穴が開いてしまい、体は風が吹けば飛びそうな紙になってしまったような感じがした。
 確かにマルチメディア事業は、夢のような目標、不可能へのチャレンジだった。クライアントの前で私がした約束のために、部下に徹夜をさせた回数など数限りはない。でも、彼らはそれに対して魔法を使って答えたかのような実績を毎回出してくれた。彼らが期待を裏切ったことなど一度もない。だから、私も彼らの望み通り、会社の規則をことごとく変えさせた。カジュアルな服装を認めさせ、完全フレックスタイムも実施した。彼らの開発に必要な機材や高額のソフトへの設備投資も全て会社と交渉して通した。
 また優秀なクリエイターやSEに対しては、給与体系を無視した賃上げを要求し実現した。私も彼らに対して、約束は守ってきた。私だって、彼等の実績に対しての報いが叶うように、やるべき全てをやってきたはずだ。絶対に、私は彼らを裏切ったり、がっかりさせていないはずだ。そりゃ、厳しいリクエストはさんざんした。怒りまくることもあった。でも自分の出世のことよりも、チーム全員が輝き、私達のセクションが事業部として認められることだけを目標に走ってきたことを誓う。

 役員応接室から出てきた私と、部下の数名がすれ違った。私と目を合わせるのを避けて通り過ぎていった。席に戻り数人の部下を見ると、目の前のパソコンに向かって黙々と仕事をしている。私のアシスタントは心配そうな眼差しで私を見ていた。私を取り巻く空気はまるで変わってしまった。私は自分の気持ちを整理すべく進捗管理表の画面を見た。開発中の案件はブルー、決定は黄色、営業中は赤に色分けされ表に溢れるばかりに並んでいる。こんなに仕事があるのに、もしかしたら、この仕事は全て出来なくなってしまうのだろうか? 皆が辞めるって彼らはどうするつもりなのか? 彼らは辞めるつもりではない、私に対しての体を張ったメッセージを送っているのに気がついた。
 私が悪かったのだ。全面的に私が悪い。私は部下との関係を修復して、マルチメディア事業への挑戦を続けていきたい。

 その瞬間、受話器をとり私が最も尊敬する元クライアントの部長で今は私のメンター的な存在の人に電話をかけた。
「すみません相談に乗ってください。私は大きな間違いを犯してしまったようです。自分で解決できる自信がありません。どうしていいか教えてほしいのです」
私は5年目にして、というよりここ15年で初めて他人に泣き言を言った瞬間だった。

 1年前、私は当時、この人に怒鳴られたことがあった。
「自分の好きな部下を選んで仕事をするようでは管理職としては失格だ。自分のことを理解できなかったり、遅れがちの部下を上手にマネージメントして実力を発揮させるのがリーダーの役割だ。君のように、優秀な部下とだけ突っ走るようなやり方ではいつか行き詰るぞ」
「何を言ってるんですか。貴方のやっているようなルーチンワークの仕事と私のマルチメディア事業は違うのです。新規事業をやっていくのは精鋭部隊、つまりドリームチームで頑張るのがベストなんです。アドバイスはありがたいですが、今の私には必要ありません」

 ようやく、あの時の言葉の意味が分かった。事情を聞き理解したメンターは、私が深く反省をしている様子に驚いたようだった。
「君は彼らを恨んではいないのか?」
「恨むことはありません。彼らの辞表は彼らの悲鳴です。私はそれを気がつかずに走ってしまった。私は彼らとの関係を修復して、もう一度頑張りたいのです。しかし、辞表を出した部下達は私との対話を持つことまで避けてしまっています」
「で、僕にどうしてほしい」
「私が最も信頼している課長代理の二人の真意を聞いてほしいのです。私は彼らに謝って、もう一度一緒にやり直したいのです。」
「良しわかった、やってみよう」

 翌日会社に行くと部長に呼ばれた。 「会社としては今回のことで君の責任を追及するつもりはない。現状この事業部の営業は全て君が行い、新規事業を立派に立ち上げ、本社だけでなくテレビ局や、大手企業の仕事まで受注している業績を高く評価している。まあ、会社ではいろいろなことが起こる。今回は部下達のほうが問題だろう」
「えっ」
「とりあえず課長代理2名の辞表を受理して処理しよう。あの二人が辞めたら下のものは辞表を取り下げるに違いない。先導者の処罰で済むはずだ」
「なんですか、そんなこと、ちょっと待ってください」
「待つ。でも君、仕事が山のように来ている事態をどう解決するつもりだ。時間はないぞ」
 私は明日まで待ってくださいと言って、部屋を出た。

 おりしも、メンターから連絡が入った。
「彼らを引き止めるのは無理だぞ。君が反省したとしてもどうしようもない問題がある」
「えっ、それは何でですか?」
「こう言ってはなんだが、君が女だからというのも気に食わないそうだ。営業力もあり、仕事も出来るのもわかるが、傲慢な態度よりも女に命令されることが自尊心を傷つけているみたいだ。僕としては、彼らの理由がそれなら引き止めても無駄だと思う。君は彼ら二人を諦めて新しくチームを作ったらどうだ?」

 メンターさえもこの事態を解決は無理だと言った。絶体絶命。私はその時にある覚悟を決めた。(つづく)

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