連載コラム
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コラムサラリーウーマン金太郎 ── 激闘本番30代篇
Vol.27 「部下との戦い Part4 僕のせいで首になっちゃうよ!」
(14.May.2001)
Bは翌日から、霞ヶ関や、羽田地域に毎日通った。そのうちに缶詰状態が続くようになった。
 3ヶ月くらいが過ぎ、ある月曜日の会議に久しぶりに姿を見せてBは言った。
「エアラインA社のホームページは、ある制作会社にデザインをテスト試験的に発注しています。」
「それはひどいじゃない。うちだって作れるのに。チャンスもくれない気なの?」
「もちろん、僕はうちの会社に、と話しました。ABCはマルチメディアは実績があっても、ホームページ制作には実績がないから駄目だと言われて反論できませんでした。しかも、その制作会社も無料同様の値段でやってるんです。エアラインA社のホームページを制作したといえば実績と信用になるからというので」
 悔しいが、制作会社もなかなかやる。その制作会社の足元を見て、金を払わないで使わない企業のHPを作ろうとしている発注側の神経は疑うが(当時を考えれば、インターネットなどまるで評価されていなかったので、仕方がないともいえるのだが)。
「悔しいじゃない、みんな。Bが3ヶ月も1人でプロジェクトに入って、こんな仕打ちされるなんて、絶対HPの制作は私達の部署でやるわよ。何をしてでもね。すぐにホームページ制作のチーム体制を暫定的に作ってちょうだい」
 さて、次は部長を動かす作戦を立てねば。実は新しい部長が来て10ヶ月が経っていた。
「部長、エアラインA社はいよいよホームページを制作に入るようです。電通や博報堂がやるならまだしも、弱小の制作プロダクションが実績になるから格安で作るという話に乗って動いてしまっているようナ。これって私達の会社が侮辱されることになりますよね。ここは、うちも実績を作るため制作に手を上げたいのですが。金額は相手のいい値で」
 ああ、こんな話はしたくないのだが、しかたがない。
「そうか、それは悔しいな。おまえの言う通りやっていいぞ。制作プロダクションごときに仕事を取られるわけにはいかん。俺からも○○部長に電話しとくぞ。頑張れ」
 うちの部長と鋏は使いようということで、今回は大活躍。私の部署がホームページ制作全部を受注し、制作の一部はこのプロダクションに、残りは私の部署でやる。ノウハウを蓄積・吸収していずれは一本立ちする。その頃からBは、自分は馴染めないと感じていたマルチメディア課の他のメンバーとの距離が急激に近くなっていった。

 1年後、ようやくエアラインA社のホームページをリリースする時がきた。制作は私達の会社が担当し、当時プロバイダー事業に参入した別の関連会社Cがシステムを担当した。正式公開の前日にエアラインA社の関連事業本部が広報部通しでプレスリリースを流すことになった。1年も頑張れば皆、同士の気持ちだ。私とBは送られてきたファックスに目を通しながら、この1年間を振り返っていた。しかし次ぎの瞬間には、体中の血が逆流した。プレスリリースの原稿には、システムを担当したC社の名前はあるのに、私達の会社の名前はないのだ。Bは残念そうに目を伏せている。私は次の瞬間には部長席に駆け寄っていた。
「関連事業本部に電話をして、プレス原稿を止めさせてください。うちの会社の名前が出てないです。C社の名前だけあるってどういうことですか。この1年間、本当に苦労したのは私の課のスタッフです。さあ、早く!」
 受話器を持ち上げて部長に渡した。さすがの部長もすぐに電話をかけた。が、しかし……。
「そうか〜。もう投げ込み時間なのか、書き直す時間がない? しょうがないな〜、残念だよ〜、この次は頼むよ」
 何言ってるのよ。のこのこ引き下がったわけ? 部長が電話を切るやいなや、部長の「駄目だった」という言葉を遮って叫んだ。
「部長、あなたが納得しても私は絶対に納得しません。私が納得したら部下の苦労はどうなるんですか。これから関連事業本部に電話します。止めても無駄です」
 息を呑む部長を横目に、私はBの席に座り関連事業本部に電話をかけた。
「植田です。さっきの件ですが、私の会社の名前がないのは納得できません」
「だって、それは部長さんと話したよ。もうプレスの投げ込みの時間なんだよ。無理言わないでよ、大したことないでしょ。お宅の部下が頑張ったって皆知ってるんだし。それにシステムの会社と書かれたからって、どうせ新聞に名前は載らないよ」
「ふざけるな〜! 大したことないですって!! 部下が1年間手弁当でプロジェクトに参加したり、無料同然でホームページを作ったのは、このプロジェクトに夢をかけて命がけで取り組んできたからです。サラリーマン根性で仕事してる奴らと、私の部下は違うんですから。プレス原稿をすぐに止めるのがどれだけ大変だというんですか。明日の新聞にうちの会社の名前があるとかないとかではなく、エアラインA社のプレスリリース原稿にきちんと書かれるかどうかを問題にしているんです。もし書かれなければ私の部下は報われません。そんなことをする親会社の仕事など、もうやるつもりはありません」
 ブツ、電話を切られてしまった。あ〜あ、全部言ってしまった。ふと気がつくと、一部始終を見ていたBが隣りで声を出して泣いている。
「もういいよ、いいよ。そんな電話したら植田さん首になっちゃうよ。絶対に首だよ」
「これで首になるなら、それでいいよ。ああスッキリした」
自分の席に付くと、部長が目を合わせないようにしている。私はため息をついた。
私の席の電話が鳴った。関連事業本部からだった。 「プレス原稿の投げ込みを止めたよ。入れたい1行をすぐに教えて欲しい」
良かった。思わず目に涙が溢れたけど、Bに向き直ってニッコリVサインを出した。
Bはその後もかなり反抗的態度をとったが、優秀な良い部下になった。関連事業本部の担当者達とも非常に仲良くなれた。私はこの瞬間を今も忘れない。まだ管理職として青かった自分を少し恥ずかしく、少し自慢に思う。

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