連載コラム
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コラムサラリーウーマン金太郎 ── 激闘本番30代篇
Vol.26 「部下との戦い Part3 手弁当で来い!」
(7.May.2001)
営業のBは私より8歳年下で、異動してきたのは27歳。生意気というより、口が悪い、上司が女性ってのも相当気に入らないらしい。会議でも皆のやる気をそぐような発言をするし、私をわざと怒らせるような言動を1ヶ月続けた。しかし、私はなぜか彼を憎めないし、本気で叱る気がしなかった。理由は行動パターンや思考が私に良く似ているから。私が27歳の時に突っ張りまくっていた頃を思い出す。その時、私は小さな自分の会社を立ち上げて、夢に向ってひたすら突っ走っていた。私は考えた、彼が本気で没頭する何かが見つかれば、彼の能力は絶対に開花する。
 Bは元々、旅行代理店の出身だ。そこで添乗も含め3年ほど旅行業を経験している。驚くことに旅行業の資格はもちろんのこと、実家が不動産屋のため不動産鑑定士の資格やいくつかの資格を彼は取得している。今の会社に入って最初の担当は、旅行代理店に置くエアラインA社の飛行機の予約専用端末にいろいろな付加価値情報を入力する仕事。企画を立てて提案した立上げ段階は面白かったであろうが、後はひたすら画面と向き合うルーチンワーク。その後、社交的な性格の彼を営業にと考えた会社はシステム営業へ。この異動はかなり本人にとっては大変だったようだったが、勉強家の彼はシステム用語を覚え、業務スペシャリストとしてホテルの予約システム他いくつかの開発を担当した。実績をあげていたにも関わらず、SEでもプログラマーでもない彼の評価は低く、挙句の果ては扱いにくいと私のところへの異動。彼のキャリアと経験を見ながら、私の課で何を担当させようかと考えた。しかし、教材開発や、外部企ニのCD-ROM制作などは彼には向いていない。やれないことはないが、本当のやる気にはならないだろう。
 そんな時に、エアラインA社がインターネットをやり始めると言うことを耳にした。私達は半年以上前からホームページの制作を提案していたのだが、ここに来てようやく重い腰を上げそうなのだ。ただし、これは試験的なプロジェクトで、営業本部と情報システム本部が数名を組織して取り組むものだった。システム関係の関連会社は私の会社を含めて3社あり、どの会社にも関われることを許されていたが、「手弁当で参加しろ」(つまり一銭もお金は支払われない)というのが条件だった。私はこの話を聞いて、すぐに上司のところに飛んで行った。
「部長、ようやくエアラインA社がインターネットに重い腰を上げました。このプロジェクト手弁当ですが、絶対に参加しなくてはなりません」
「何言ってるんだ。インターネットはパソコン通信みたいなもんだろう。駄目駄目、手弁当たって人件費は出てくんだぞ。検証が終わってから、うちは入ればいいんだよ」
「お言葉を返すようですが、インターネットに関しては私達も実績はありません。このプロジェクトに一緒に入って、エアラインA社と一緒に勉強しながら実績を積むのです」
「信じられないな。無駄だよ無駄。きっと最終的には代理店の電通や博報堂、もしくはメーカーがやるんだよ。それに誰を出す? おまえのところに余剰人員がいるのか?」
 私は部長にインターネットの何たるか、そしてその可能性を説明する暇はないと思った。
「無駄でないと信じます。プロジェクトには、まずはBを出します。状況に応じてクリエイターも入れるつもりです」
「あっそ〜。Bならいいだろう。おまえも、ひどいことするよな。手弁当のプロジェクトにBをアサインして、俺ならそんな仕打ちをされたら絶対にやめるぞ。しかし、そういうことなら俺はOKだ」
 最低な上司……今に始まったことではない。
 私はBを会議室に呼び、向かい合って座った。さて、彼がなんと言うかだ。
「インターネットのプロジェクトが始まるらしいけど知ってる?」
 Bの目が一瞬輝いた。
「営業本部の人から聞いてます」
「あなたは興味ある?」
「あります。だって僕が前にやっていた、エアラインA社の予約専用端末に付加価値として提案した情報を全部展開できるようなものだし、未知の可能性があると思うから」「私もインターネットは未来のあるメディアだと思うわ。あなたこれを担当する気ある?」
「僕がですか?」
「ええ、そう。でもこれは関連会社は手弁当で参加なの。3ヶ月なのか1年になるか期間も分からない。事業化まで行けるかもわからない。したがってうちの会社としてはプロジェクト参加には消極的よ。私もあなたも評価されないかもしれない。でも、私は千載一遇のチャンスだと思う。手に入れられそうなチャンスがここにあるんだもの、チャレンジしないなんて考えられない。私が代わりにメンバーになりたいくらい」 Bはちょっと考えた。そして一呼吸置いて答えた。
「俺、やります。たとえ1年後に無駄になっても」
「私が、無駄には絶対にさせないから! 約束するわ!」
 しかし、彼の苦労はこれからだった。
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