連載コラム
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コラムサラリーウーマン金太郎 ── 激闘本番30代篇
Vol.19 「スカート履いてるからって舐めるなよ!」
(9.Aug.2000)
アップルコンピュータのマーケティング部長K氏から、またもや企業セミナーのリクエストがきた。今度はN社の関西支社で通信事業に携わるネットワークSEの方々向けに、企業内でのマルチメディア活用の実績を講演して欲しいという依頼だ。アップルコンピューターも相手が相手だけに真剣のようだ。
「でも天下のN社ってかなり進んでいるんじゃないかしら? 以前、関連会社の常務が、うちは隠している研究や実績があると自慢してたから、そこに頼めばいいのに」
「それが本当ならね。僕の顔を立てると思ってやってくれよ。僕が1時間、君が1時間。大阪まで悪いけど、会社も営業にもなるだろう。社内セミナーだからたいしたことないよ」
「いいわよ。Y社ではフォローなしだったけど、今度はあなたの会社がしっかりフォローしてくれるなら引き受けるわ」
「大阪支社のスタッフが持ち込んできた話だから、現地でもばっちりフォローするよ」
というわけで、部長に報告。前回のY社の話を聞いて、自分が行かなくて良かったと思っている部長は一言、
「これからは、うちの会社が主催するセミナー以外、俺は軽々しく出て行かないことにするよ。このレベルならおまえで充分だろう。せいぜい恥をかかないようにやって来い!」

 当日、午後1時からのセミナーで、10時にはアップル大阪支社に集合というスケジュールなので、私はクリエイターのO君と早朝7時の飛行機にギリギリセーフで飛び乗った。ちなみに、エアラインA社グループ社員なので新幹線はどうしてもというとき以外は使えないのである。時刻通りに到着すると、何やらアップルの大阪支社は慌てふためいている。なんと私に依頼をしたマーケティング部長K氏本人が、急遽来られなくなったらしい。彼のプレゼンテーションfータだけが大阪に送られて、担当課長が代わりをやることになった。私達との打ち合わせなど眼中にないほどのパニックぶりだ。たかが社内勉強会じゃない、そんなに慌てなくてもと私達が思っているのは甘かった。
 N社のセミナーホールは驚くほど大きかった。さすが民営化されても、元は〜ですものね。そこには150名ほどの通信ネットワークのSEの方々(平均年齢が45歳くらいらしい)がびっしり座っていた。あれー、これってすごくちゃんとしたセミナーじゃない。私達は気後れはしなかったが、アップルの狼狽の理由がこれでわかった。NTT責任者である部門の室長は50代のオジサマ。アップルの担当課長が米つきバッタ状態で謝っている。ようやく私達の紹介になった時、相手の顔は、さらに当惑というより、嘆きに近い怒りの表情になっていた。またもや……である。そして、講演の前にランチミーティングをということで、NTTのオジサマ2名と私とO君で、近くのホテルの高級レストランへ向かうことになった。何たる不自然な昼食会。
「あなたはスチュワーデスだったのですか」「君は学生なのかな」「君達は、その……失礼だがいくつなのかね?」「あの、つまり君の会社は、なぜ女性に統括責任者とかをさせてるのかね」「アップルコンピュータから主旨を聞いた上で、会社が君達を選んだの?」
 こういう会話には慣れているので怒りは感じない。というより笑いがこみ上げてくる。ただし先方は、不安を通り越し、今日は失敗に決まってる、どうしようというような絶望感が伝わってきた。

 午後1時セミナーが始まった。アップルの課長は朝届いた他人が作ったプレゼンテーション資料を、しどろもどろに読み上げるに終わる状況で事態は最悪。5分の休憩の後に私とO君が壇上に上がった時は、ブーイングが聞こえるような冷たい雰囲気。
 しかし、いつものスタイルで、力を入れて私は話し始めた。持ってきているデータは完璧なのである。見れば驚くことは間違いはない。その価値をさらに私のプレゼンで皆に理解してもらおう。パイロットやスチュワーデス教育の教材がここまで進んでいるということ。他社の開発事例や、数々のノウハウをいつものように披露した。しかもこれはデモデータではなく、全部実際に使われているものばかりである。あっという間に1時間が過ぎた。いくつかの質問が出て、終わりの挨拶をすると拍手が沸いた。そして壇上から降りると、先ほどのオジサマ達が別人のごとく微笑を持って近づいてきた。応接室で少しお話を聞きたいという。10名くらいのいろいろな部署の管理職の方と名刺交換をして、引きとめられたが帰りの飛行機の便の時刻が迫っていたのでセミナー会場を後にした。彼等が最後に言ってた言葉が耳に残った。
「マルチメディアは柔軟な女性の発想と若いクリエイターの力が必要なんだということを思い知りました。私達はもっともっと勉強をしなくては」
 当たり前じゃない、スカート履いてるからからって舐めるんじゃないわよ! 心の中で私は小さく叫んだ。

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