連載コラム
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コラムサラリーウーマン金太郎 ── 激闘本番30代篇
Vol.16 「ジェットコースターのような女性部下」
(28.Jun.2000)
アシスタントのA子が一人前になった段階で私の他のグループからの要請があり、彼女を私の直属からはずした。A子はもう一人立ちできるし、頑張る根性にも磨きがかかったから、彼女のことは心配ないが、私の状況はまた振り出しだ。しかし、今回は人事異動でB子が配属されることになった。B子は私より3歳年下の32歳。旅行代理店では添乗員の経験もあり、それまでの社内のポジションは営業系。しかし社内の女性社員の派閥争い(こういうのがあったことすら私は知らないのだが)の中で、部署を転々とし、最終的に私のところに漂流してきたらしい。
「彼女は良く頑張るが問題がある。気分にムラがあって、上司はコントロール不能になる。まあ32歳だしそろそろ辞めてもらっても会社ではいいと思っているんだが、結婚の予定もないみたいだしな。おまえの下なら半年で辞めるかもな。まあ責任感じなくていいぞ」というのが、例によって私のムカツク上司部長からの異動にあたっての説明だ。どうして毎回毎回、私を怒らせ奮い立たせてくれるのだろう。
 B子と面接した。
「私、植田さんの部署で駄目なら終わりです。もう最後の場所ですから。でもマルチメディアとか分かりません」
 いきなり、相当に思いつめた悲惨な顔。
「大丈夫よ。あなた添乗員の経験があるんだったら、セミナーやイベントに興味ない? 私の営業は顧客と1対1での商談も大切だけど、そこまでお客を引きつけるためのセミナーやイベントこそが最も大事なの。あなたに全て任せるからやってみない。そりゃ私は分からないところは相談に乗るけど、あなた自身がプランを考えた閧オてみて」
「イベントとかの経験はありますが、旅行関係ばかりだし」
「イベントやセミナーは皆同じよ。問題なくやって当たり前。でもいつだってトラブルが起こる、それをうまく状況判断して運営する能力はすごく大事よ。あなたはあると思うし、その部分ではあなたが本気でやる気なら、全て中心という形でチームを作るわよ。いろいろなセミナーに参加して見てきて頂戴。それで一番いいのやりましょう」
「わかりました。頑張ってみます」

 彼女は32歳。一生懸命頑張ってきたけれど、社内評価は高くない。自分の能力に対しての可能性を信じたいけれど不安なのだ。最初の仕事で自信を失えば、間違いなく辞めるだろう。ここは彼女にチャンスを与えて、どこまで出来るか、そして彼女に成功する快感を味わせるフォローをしよう。彼女は頑張った。一生懸命資料を集め、自分で他のセミナーにも参加した。出来なかったカード型DBソフトを学び、顧客リストを作ったり、DMを配布するための企業提携の案を考えたり。朝から晩まで、22時を過ぎてもオフィスにいることが連続した。そんな彼女を尻目に、
「あなたに任せたから私は営業ディナーに行くわ。ゴメンね。頑張って」
 なるべく口を出さず、彼女が報告&相談をしてくるのを待った。そして10日に1度くらいは一緒に夕食を食べながら、いろいろな話をした。部下と食事をすることの意味というのをこれほど考えた時期はない。通常のコミュニケーションの中だけで、完結しきれないものというのがあるのだ。
 彼女はその年の、あらゆるセミナーやイベントをつつがなく成功させた。私は多いに嬉しく思い彼女を高く評価した。上司も私の査定を承認せざるおえないようだった。

 しかし、10ヶ月後だっただろうか、彼女が3日連続で無断欠勤をした。私には皆目、理由がわからなかった。仕事でミスがあったわけではない。何があったのだろう。部長が耳打ちした。
「彼氏のこと聞いてないのか。有名だぞ、たぶんその男のせいだよ。彼女はジェットコースターなんだよ。上っていっても急速に落ちて行く」
 4日目にそ知らぬ顔で出勤した彼女に私は聞いた。
「無断欠勤なんてどういうつもり。社会人の常識を超えてるわよ」
「理由は言いたくありません。個人的なことです。会社より仕事より大切なことだってあるんです」
「男性関係のことだろうと耳にしたけど、そんなことで、あなたは社会人としての会社での信用を失うのよ」
「そうです彼氏のことです。その男のほうが大切です。今の私にとっては」

 彼女の無断欠勤はその後4〜5ヶ月に1度続いた。私はもう彼女を成長させることも期待する気持ちも持てなくなってしまった。そして1年後、彼女からの退職願が出て、引きとめる間もなく彼女は去っていった。
「自分の大切にしている生活を選びます。植田さんにはついていけません」
 私は、自分が悪かったのか、もっと彼女と仕事を出来たのか分からなかった。もっともっと伸びるという可能性があったのに。マネージメントの限界を感じた空しさと、だから女は駄目だと言われるのかなと、ふと自問自答をしていた。

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