連載コラム
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コラムサラリーウーマン金太郎 ── 激闘本番30代篇
Vol.15 「女性部下誕生! 泣きたいのは私のほうよ」
(14.Jun.2000)
課長代理になった私には、当時10数人の部下がいた。ちょっと前までは同じチームの仲間だったけれど、今度は私が管理職になり彼らは私のマネージメント下で仕事をする。
 人をきちんとした形でマネージメントするのは、これが初めてだ。いったい何をやればいいのだろう。部下を評価するとか育てるとか、いったいどうしたら……。今までは新規事業のプランナーであり、プロデューサーとして得意分野だけで勝負できたのだけれど。
 課長代理となったときの部下の構成はクリエイターやSEなど、ほとんどが男性だった。しかし私の直属の営業チームには、私と男性が1名。その年の営業目標ノルマは2億円近かった。親会社であるエアラインA社への取引が7割としても、確定要素は少なく営業活動は昼夜問わずフル稼働しても追いつかない。何しろ営業責任が100%私の肩に圧し掛かっており、これをクリアしなくては、事業部化への道はすぐに閉ざされる。私には自分のパフォーマンスを上げるための、右腕になるアシスタントの女性が必要だった。
 A子との出会いは、彼女にとっては思いがけない出来事だった。A子は端末オペレーターとして入社3年余り、おっとり型でカワイくて社内でも人気者、それゆえ社内結婚もしている所謂OL。彼女の部署の閉鎖で異動の候補に上がっていたのを、配属要請をしたのは私。理由は彼女が、ナレーションの専門学校を出ていることと、非常に常識的なバランス感覚を持っており、営業に必要な対人関係においてのイメージがいいから。それと意外に根性がありそうだったから……。私の配属要請を意外に思ったのは上司だった。
「A子はOLちゃんだよ、ただの。取りわけて優秀でもないし、結婚してるし、子供できたらすぐ辞めるんだから、新しい事業にチャレンジする精神もないし。配属して厳しくしごいたら、つぶれるぞ。パソコンのスキル入力だけだよ」
 私は、この言葉を聞いているだけで体の血が逆流した! 女性蔑視もそうだし、部下の能力を見る目が全くない。よし、私が彼女をバリバリのキャリアウーマンに変身させて、私の右腕にしてみせる!
 辞令を待ちきれずに内示の当日、彼女にイベントを手伝わせるべく、会場に行くタクシーの中で私は張り切って話を始めた。しかし、私の期待を裏切り彼女はすごく怯えていた。
「なんで、私を選んだんですか。植田さんはとっても厳しいと聞いています。マルチメディアなんて何もわからないし、ついて行けません」
「何いってるのよ。私のセクションはこれから大発展をするのよ。私に選ばれたんだから自信を持ちなさいよ」
「私は希望していません」
 その時に知ったのだけど、バリバリのやり手の私は社内のプロパーの男性社員からは羨望の目では見られていたものの、女性社員、特に若い女性社員から嫌われ、恐ろしがられていたのだ。それも相当に。「仕事の鬼」と思われていたらしい。
「私は確かに厳しいかもしれない。でもねあなたは見こみがあると思っている。ただの主婦OLじゃもったいないじゃない。6ヶ月、歯を食いしばって私についてきなさい。後悔はさせないから。あなたがこの会社に入って1番幸せだと思うことは、今のご主人に出会えたこと。2番目は私の部署に配属されたことだと思うようになるから」
 彼女はその言葉を、信じられないという顔で涙ぐんで聞いていた。
 それから彼女と私の戦いが始まった。
「1度言われたことを何度も聞くんじゃない! 私があなたにして欲しいことの50%はルーチンワークでしょう。私に指示されたり、顔色みなくてもどんどんやれるでしょう」 「ワードやエクセルもまともに使えないのに、なぜ平気なの。悔しくないの。チャンスを上げるわ。パソコンスクールを自分で決めなさい。1週間、あなたを行かせるから、そこで勉強してきなさい」
「10いって10できる部下なんかいらないわよ。2〜3言いうだけで私の10を想像してやりなさい。私の指示の先回りをしなさい。自分で考えて行動しなさい!」
 彼女は毎日、赤い目をし唇を噛み締めていた。その理由は私との約束があったから。、
「皆のいる前で泣いたら承知しない。同じことを言われても男は泣かない。泣けば"だから女はだめだ"って言われる。あなたを6ヶ月でキャリアウーマンにしてみせるという私を信じるなら、悔しくてトイレで泣くだけ、成長すると思いなさい」
 泣いた泣いた。彼女は最初の1ヶ月は毎日トイレで泣いた。次の2ヶ月は毎週泣いた。
3ヶ月後は10日に一度、6ヶ月後には1ヶ月に一度となった。6ヶ月後、彼女は非常に優秀な私の部下となった。私は35歳、A子26歳だった。かなり乱暴なやり方なのに、彼女がついてきてくれたのは、彼女の負けず嫌いの根性のおかげだと思う。彼女がトイレに駆けこむ後姿を見るたびに、泣きたいのは本当は私なのよ。頑張って付いてきてよと思った。
 私は彼女が一人前に事業部のメンバーになった時、本当に嬉しかったし、彼女に感謝した。そして、ほんのちょっとだけ、管理職としての自信がもてた。しかし、私の仕事の鬼伝説はさらに拍車がかかったことは間違いない。
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