連載コラム
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コラムサラリーウーマン金太郎 ── 激闘本番30代篇
Vol.14 「おんぶに抱っこじゃないんだよ!」
(7.Jun.2000)
私が課長代理になって分かったことは、事業における責任より私の言動における責任の重さだった。今までは、新規事業をやってる企画力&行動力のある威勢のいい女の子なんて思われてる程度が、名刺の肩書きによって、個人ではなく公人としての責任を問われる場面が多くなった。予期していたことではあったが、私自身かなり戸惑った。
 それと共に一番に意外だったのが、今まで一緒に仕事をしてきたスタッフ達の気持ちだ。何となくそらぞらしい。私の年収が下がったことなど知らない彼らは、私が会社と取引して自分だけ出世したかのように感じているようだった。
 そして最後にドーンと圧し掛かったのは売上のノルマだ。当時年間2億円くらいが課としての営業ノルマで、それの営業責任は全て私が負わなくてはならなかった。おまけに、本社と仕事の関係では、前にもまして理不尽な要求を出された時に、交渉の矢面に立たされる場面が非常に多くなった。そんな中である事件が勃発した。
 その仕事は私の直属の上司が、本社時代にいた部署からのものだった。ある重要なプレゼンテーションのデータをマルチメディアを使ってやりたいというもので、企画から素材制作、プログラミング及びナレーションで300万円相当の案件だった。これを特に今回は今後の話もあるから(こういう話に限って、続きは無いことは百も承知)200万円で受注した。納期は3ヶ月、ディレクタ−1名とクリエイター2名によるチームを組んだ。仕様書が3回も変わり、作ったデータは無駄になり、スタッフは悲鳴を上げた。
「もう、こんな仕事できません。毎回仕様が変わります。200万円で受けるべき内容ではないのに、なぜやるんですか? 僕達はどうしたらいいかわかりません」
 この話しを上司に伝えると、まあ今回は特別だからわがままは聞いてくれというばかり。私はスタッフをおだてすかして、とにかくデータを完成させ納品した。
 クライアントも最終的には喜び、あとは請求書を出すのみとなった。そんな時、私は上司に呼ばれた。
「なあー、あの仕事だけどなー。見積もりは200万円で出して受注したよな。それがなー、彼らもちょっと予算が厳しくなって、50万円にしてくれっていうんだよ。俺としてはなー。いろいろ世話にもなってるし、元部下の頼みだし、それに本社だし。だから50万円で請求書出してくれ」
 えー! 何いってんの? 私は会社の管理職会議の中で、売上計上してるじゃない。ふざけんじゃないよ! いったいこの責任、誰がどうとってくれるの……。という怒りをできる限り抑えて、
「私としては全く納得できませんね。うちの会社はボランティア活動をしてるわけではありません。この仕事、私の責任において引き受けていますので、先方に至急事情を聞いてきます。部長に迷惑はかけませんから。いいですね、止めても行きますよ」
「待てよ。なー、事を荒立てるなよ。おまえが行くのはいいが……」その時、部長が後の言葉を発しなかったのは、私の怒りに満ちた顔の恐ろしさだったからだろう。

 私はスタッフのディレクターを連れ、1時間後にその本部へ行った。私が行くことを電話で聞いていたらしく、ニヤニヤ笑いながら担当者が出てきた。
「Aさん、貴方では話になりません。B課長とお話をしにきました」
彼の顔は一瞬こわばったが、直属の上司が出てきた。
「B課長、あのプレゼンデータの件ですが、お見積もり200万円で受注させていただきましたが、50万円にしろというお話、何かの間違いですね?」
「いやー。そんな硬いこと言わないで、君のところの部長はOKと電話で言ってたしさー」
「それは困ります。私がここに来てお話することは上司の了解をとっています。私の会社は本社とは違って、私達管理職が営業ノルマを負っております。社内の営業会議で一度報告した売上が変更になるのであれば、それなりの理由を会社に報告する義務があるのです」
「なんだなー。君の上司だって困るよ。君がそんなこと言うと」
「失礼ですが、個人的に私の上司が困ることなどどうでもいい事です。私は出向社員ではないですし、本社におんぶに抱っこの事業をやっているわけではありません。ビジネスの筋を通していただきます。200万円払えとはいいません。200万円を50万円しか払えなくなった理由を、本部長名で私の会社の社長宛て文書にしていただきたいと思います。宜しいですね。それさえいただければ、会社として納得できますので」
 目の前のオジサマと若者は口を開けたままだった。これで首になるんなら、なっても構わないなんて思いながら会社に戻った。その夜、部長に呼ばれた。
「おまえはすごいなー。200万円払うと言ってきたぞ。請求書を出していいぞ。一躍有名人になったみたいだぞ。本部長も会いたがってる」
 いつもはムカツクことのほうが多いこの上司の言葉には、自分の立場では押し通せないことを、若さと無謀さでやった勇気へのちょっとだけ賞賛のニュアンスが含まれていた。

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