連載コラム
spc

コラムサラリーウーマン金太郎 ── 激闘本番30代篇
Vol.13 「ハーレクインロマンスの母」
(31.May.2000)
私の母も他のお母さん同様、娘の結婚に夢を抱いていた。
 母自身、映画の「バック トゥー ザ フューチャー」そのままに、ダンスパーティで知り合った父と恋に落ち、結婚している。父はわがままな母に非常に優しいソフトな人で、公務員だから至って家庭的だった。だから母は、娘も家庭的な優しい人と素敵な恋愛結婚をし、専業主婦になるというコースを歩んで欲しかった。
 18歳で筑波大学の寮に入り、そのまま医者と学生結婚すると言った時は相手のイメージが母の夢とはかけ離れていたようで、猛反対のあげく勘当されてしまった。その後ようやく和解できた頃に、離婚すると家を飛び出し一人暮らしを始めた。その時も「出もどるなんて」と呆れ果てた。更に、27歳で会社を始めた時には、「女だてらに何考えてるの?」とまた勘当寸前。しかも、その会社をつぶし、今度はアスキーで超ハードに働き、留守電に入ったメッセージすら無視する姿に、「女が髪を振り乱して働くものじゃない、いいかげんにしなさい」と顔を合わせるたびに口論となっていた。
 そんな中でのエアラインA社グループへの転職。母は、今度は安定した会社に入って落ち着くつもりだと思い密かに喜んでいた。私がプロジェクトの事業化と事業部長になることを目標にがむしゃらに仕事に走っていることなど、ほとんど気づかなかった。母はこの会社に勤めている間に、娘に女の幸せを掴ませなくてはと考えた。最初の2年間は彼氏ができたと言えば、母が毎月全シリーズ読破している恋愛バイブル、ハーレクインロマンスの3000冊の本棚から数冊を渡してよこした。
「そう、今度の彼が青年実業家なら、この3冊がいいわ。これをよく読んで、ちゃんとゴールインしなさいよ」
 母がくれたバイブルのストーリーは、過去の恋愛に深く傷ついたキャリアウーマンのヒロインが、とび色目? をしたやり手の青年実業家に出会い、最初は反発しあうけど、結局恋に落ちて、仕事より男をとってハッピーエンドという内容。確かにロマンチックではあるけど、私の人生への価値観とは大違い。私は離婚の時に、自分で自分自身を幸せにすることを誓った女だもの。したがって、バイブルをもらっても彼との関係が進展しない。
 娘にその気が無いとわかると今度は実力行使の見合い話でプレッシャーをかけてきた。
「貴方がどんなに優秀だって、日本の会社で女性が管理職になるのなんて無理よ。それにもしなったとしても、年上のお局みたいな女性管理職の下で働きたいなんて誰も思わないものよ。ママの時代は33歳の厄年越えたら、もうお嫁になんていけなかったのよ。今年が勝負なんだから」
 その頃、仕事で精神的にくたくたの私は母に反抗する気力もなく、母の進める見合いをした。当時私は33歳、相手は独身もいれば再婚の人もいた。カウボーイスタイルできた、牧場とレストランを経営している方、奥様と死に別れた某住宅メーカーの社長、歯医者さん。いい方だったとは思うけど、私にはその気がないのだもの。しかたなく、一応は気に入られる風な格好ではいくけれど、例のお二人になってという場面では。
「仕事を続けたいのではなく、今のプロジェクトを事業化するのが私の夢です。結婚に関しては、今の自分の生活のペースを変化させなければしてもいいと思っています。もちろん恋愛はしている暇はありません」 これでは断られるための模範回答。結局1年間に5回くらいの見合いをして、母もようやく諦めた。
 そして、私が管理職の辞令をもらい、男性と同等以上に仕事をやり、評価されているのだという話しを聞いて、だんだん発想を変えてきた。近所に嫁姑で苦労した話や、家庭内暴力、夫の浮気。結婚すればくっついてくる心配を親としてしなくていいというのも、ものは考えようだ。
「娘だと思うから心配したり頭にきたりするのよね。息子だと思ったら結構、貴方は頼もしいほうよね。これからはそう思うようにするわ。老後ひとりにならないようにだけが忠告よ」
 母にとって、その頃から私は息子になったらしい。
Top↑
spc

close