連載コラム
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コラムサラリーウーマン金太郎 ── 激闘本番30代篇
Vol.10 「ハダカになって走るぞ!」
(5.Apr.2000)
セミナーは好評だった。1日3万円くらいの結構高い値段でも、定員をそこそこ埋めるほどだ。やはり世の中にニーズがあったのだ。しかし、同じことを何回もやると人間は飽きてきてしまうし、不安になる。この繰り返しで何処までいけるのか……。
 このセミナーの参加企業の相談案件には、「スタッフのクリエイターがディレクターというソフトのマクロを4日教えて100万円」という利益率のいいコンサルテーションも数軒あった。しかし、このような技術的な単発のコンサルテーションは、事業の柱となるべきものでもなく、一種のむなしさだけが残った。
 自分達のためにもなる、もっと面白いことはないだろうか? 私達の実践ノウハウ、セミナーやコンサルテーションにこれほどのニーズがあるのなら、受託開発につながる網をもっと大きく広げるべき?
 そう思ったときに、あることを思い出した。私が2年前にマルチメディアビジネスに参入した時、藁をもすがる思いで探したノウハウ本のことを。当時それらしき手引書は皆無の状況で、「CD-ROMの作り方」なる1万5千円の本をやっと見つけた。そして読んで驚いた。書籍の製作の常識程度しか触れていない、全く役に立たないものだったのだ。そして、今もそういったたぐいの本は出ていない。
 そうか、このノウハウを本を出版しよう。いや、マルチメディアのノウハウを教えるなら、本では無理だ、いっそのことCD-ROMにまとめて出版しよう。NSXのエンタテイメントを出してからもう1年以上、私達は一般コンシューマ向けのCD-ROMは作っていないし、昔は編集長だった私の「人に読まれるものを作りたい」というC持ちが、急速にこれに傾いた。よし絶対やろう! 例によって一晩で、『コースウェア開発のノウハウ』というCD-ROMを自社出版&販売をする企画書をまとめて、部長に提案した。反応は……またもや理解の範疇を超えたようで、例によって、質問攻めだ。
「いくらかかるんだ、何のために作る、いくらで売るつもりだ? いったい誰が買うんだ。採算が合うのか」
 この会話はもはや私にとっての、毎回通るべき関門。呆れて物が言えないという思いももはやない。
「必要なお客は3万円のセミナーにも来る。彼らはノウハウの入ったバイブルだったら、高額でも絶対買う。定価は5万円それを実売3万円で売ればいいのです。原価は600万円もかかりませんから300枚売れれば元はとれますよ。それに営業にもなる」
 今回は思いのほかすんなりと説得ができた。4ヶ月後には『コースウェア開発のノウハウ』というCD−ROMが完成され、直販が始まった。3000円のCD-ROMの次は5万円という業界が驚く価格をつけたけれど。つまりCD−ROMの値段ではなく、ノウハウの値段が5万円の価値だということで、これは予測の通り300枚が売れた。

 内容は教育におけるマルチメディア導入に関する、定性効果&定量効果の考え方から、技術的な画像圧縮技術や音声圧縮技術の精度の比較、業務のプロジェクト管理の仕方、見積りの見方(これはなんとエアラインA社に使った本物)と価格の交渉の仕方、エアラインA社の教育訓練に携わったパイロットの教官達のインタビュー、外注会社の使い方、失敗しないための10の法則等、ありとあらゆるノウハウが入っていた。部下が言った。
「このCD-ROMにうちの会社のノウハウが全部入ってしまってますよ。これを出したら何もなくなってしまいます」
 ノウハウが全部公開されたということは事実だった、でも、私はそれは違うと言った。
「このCD-ROMを見て、私達に仕事を頼んでくる会社もあるだろう。また自分達でやろうとする会社もあるだろう。実践ノウハウは勉強できても、私たちには誰にも真似できない実践の経験値がある。しかし、他の会社の追随を許さないように努力しなくてはいけないし、新たなチャレンジをしなくてはならない」
 自分達の更なる飛躍のための1枚の記念すべきCD-ROMだった。私達は裸の状態になってまた走り出すしかならないところに追い込まれた。この業界で生きる宿命かもしれない。

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